不幸中の幸い

 幸いというか,この人が英会話がペラペラに達したことは知らない人がほとんどだったから,この人が突如英会話ができなくなったことに気付いた周囲の人はいなかったらしい。また,モーツアルト研究は嫁さんも知らなかったというから,曲名・ケッヘル番号DNSが蒸発したことを気付いたのは高校の悪友だけだったという。
 それは,この人に幸いしたんだという。勤務先会社の直属上司は「こいつは退院しても使い物になるか?」という非常なビジネスライクな判断をして,密かに「使い物にならなかったら辞職勧告するから」と総務課長に指示していたという。
 しかし,英会話もモーツアルトも,職場でも周囲には言わなかったから,結局,彼は,脳梗塞で倒れる前と同じに見える状態で復帰したことになったので,しかも退院直後から多数の課題を割り当てられてスキルチェックまでされたが,これを周囲の協力のもとに乗り切ることができたので,最終的には辞職勧告されずに済んだという。